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大阪高等裁判所 昭和25年(ラ)90号 決定

抗告人 杉山助太

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由は、抗告人は、今より二十数年前、すなわち抗告人の十七歳の時から、現在に至るまで、引き続いて通名「和久平」を使用し、戸籍等に対する届出その他官公署に対する正式の公文以外は、その本名である「助太」を使用したことがなく、従つて公共団体その他官公署からの嘱託などにも、通名「和久平」名義を用いられており、一般世人は、抗告人の氏名を「杉山和久平」と呼び、それが本名だと信じている事情である。

以上のような次第であつて、抗告人としては、いつまでも、本名と通名とを併用することは、何かにつけて不便であり、又今さら通名を廃して、本名のみを使用するときは、却つて世間の疑惑を受ける虞があるから、名の変更の許可を得るため、本件申立に及んだというのである。

案ずるに、人の氏名はいうまでもなく、その人の同一性を示すものであるから、これを(本件においては名)変えることによつて、その人の関係する社会の各方面にある程度の混乱を、起すという不都合があるのは看易い道理である。しかし又戸籍上の名を改めない時は、その本人の社会生活上に不便の生じる場合も考えられるから、結局右の不都合を忍んでも、なお戸籍名を改めるを要する程度に、本人の社会生活上の不便が、著しい場合において、初めて、法にいわゆる名の変更するに正当なる理由が、あるといわれなければならぬ。

本件において、抗告人は、二十余年前より、通名「和久平」を用い、世人は「和久平」が抗告人の本名なりと信じているというも、戸籍名の外に通名を用いているものは現今社会に往々存するのは明かな事実であつて何等特別の事情(例えば戸籍上の氏名と同姓同名があるなど)の見えない限り、ただ永年通名を用いているというだけでは右通名を戸籍名にしなければ、抗告人の社会生活上、著しい支障があるとは、到底考えられない。

又抗告人は、今さら戸籍名のみ使用するときは、世間の疑惑を招くように、いうけれども、その理由を明かにさえすれば、かような疑惑は、直ちに一掃するに足るものというべきである。

これを要するに、抗告理由にいうところは、未だ戸籍法第百七条第二項にいわゆる正当な事由に該当する場合でないというの外なく、その他記録を調べて見ると、原決定は何等違法の点がないから家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり決定する。

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